変なゲーム「Paratopic」を遊びました

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Paratopicというゲームがなかなか面白かったのでプレイ後のメモ。50分程度で終わるわりには長いこと楽しめる。
答えが見えそうで見えない、クリア後も迷宮を彷徨うようなゲームです(好き)。

store.steampowered.com

Steamのストアページの紹介によると「物語主導のホラー風アドベンチャーゲーム」。アドベンチャーと銘打たれてはいるものの、戦闘やアクション要素はなしでゲームオーバーもない(だからなのかセーブ機能もない)。ついでにエンディングも一つだけのよう。「ホラー風」というだけあって全編に渡り不気味な雰囲気で、ゲームの構成(後述)も不安を煽る。

さて、このゲームはあまり事前情報を入れずにまずはプレイしてみてほしいタイプの作品だけども*1、公式の紹介文ぐらいの情報は知っておいてもいい(というか知らないと全くわけがわからない)ので一部引用する。

VHSテープを密輸したことがバレ、追い詰められる。森で神出鬼没の珍鳥を見つけて写真に収める。怪しげなダイナーのバックルームで、とある男性を殺害する。

  • 熱に浮かされて見る悪夢のような、残酷な夢の世界を旅する、ナラティブ駆動型・ホラーテイストのアドベンチャーゲーム
  • 緻密で多様なヴィネットが撚り合わせられ、3人の登場人物の交差する物語が紡がれる。

というわけで、Paratopicでは三人の登場人物の視点がごちゃまぜに、脈絡なく、突然に切り替わる。事前に上記の情報を知らなければ「登場人物(プレイヤーが操作することになるキャラクター)が三人いる」という構造すら把握が困難なほど。

こう書くとわけのわからないゲームに見えて、遊んでみると実際わけがわからなくて困惑するんだけど、意味不明なのではなく一つの物語がバラバラのパズルピースに分解されている。考えながらピースを拾っていけばある程度は話がわかってくる(……気がする)ところがなかなか好みだった。

この先はネタバレ。


初回プレイ時点での予想メモ。こういう話だったのではないだろうか……? 記憶に頼っている部分が大きいので再プレイして確かめたい。

登場人物は密輸人(The Smuggler)、バードウォッチャー(The Birdwatcher)殺し屋(The Assassin)。以後、頭文字を取ってS、B、Aとする。それぞれの人物の性別が直接的に描写されることはないが(確か)、展開と照らし合わせると、Sは男性、Bは女性、Aも女性である。

  • Sは違法VHSテープを密輸していた(密輸品をくすねていた?)。この「違法テープ」はただのビデオテープではなく、登場人物のやりとりによるとどうやら鑑賞者にドラッグを摂取したような効果をもたらすようだ。テープの鑑賞によって肉体が変異するような描写もあるが、それを目撃している人物(その時点でのプレイヤーキャラクター=S)もテープの摂取者の疑いがあり、現実なのか目撃者の幻覚なのかは定かではない(ただし、肉体を変異させてもおかしくないような代物である可能性はある)。
  • Sは密輸が組織(?)にバレて追い詰められ、車で逃走を図る。Sが道路を走るシーンでは助手席に違法テープの入ったケースがある。
  • Aは組織(?)からSの始末を依頼され、車でSを追う。Aが視点人物となっている時、プレイヤーキャラクターの持ち物は拳銃である。Aが道路を走るシーンでは助手席に拳銃がある。
  • 同時期(あるいは少し前)、Bは珍鳥を求めて森を訪れる*2。Bが視点人物となっている時、プレイヤーキャラクターの持ち物はカメラである。
    • Bが車を停めて森に入る時のシーンでは、ケースに入ったカメラが登場する。そして、ここがややこしいのだが、このケースがSの持っていた「違法テープ入りのケース」と同一の見た目である。そのためプレイ中は「Sがいきなりケースからカメラを取り出して森を散策しだした」ように見え、混乱した。しかし、(仮にSがカメラを持っていたとしても)Sが置かれた状況を考えるとのんきに観光などするはずはないので、このシーンの視点人物はBだろう。ケースの見た目が同じなのは、メタ的に見ればプレイヤーの混乱を狙ったのかもしれないし、ゲーム内の設定的にはこのケースがこの地域で一般的に用いられているものなのかもしれない。
  • Sは道路沿いの雑貨屋で宇宙人を信じている店員と会話する。Sだと断定できる根拠はないのだが、会話の中で「州外に行くんだ」みたいな台詞が出てくるので、このシーンの視点人物は逃亡中のSではないかと推測できる(ちょっと記憶曖昧&根拠薄弱)。
  • Aは道路沿いの雑貨屋で宇宙人を信じている店員と会話する。会話内容はこの地方の観光について。やはりAだと断定できる根拠はない(Sはすでにここを通り過ぎているからSではないはずだが、Bの可能性はある)のだが、後の展開からここの視点人物はAではないかと思われる。
  • Bは森を散策するうちに、奇妙な放送が流れる地下室、川沿いに打ち捨てられた大量のコンテナとそれを輸送していたらしい施設の痕跡、そして謎の廃墟を発見する。廃墟に近づいたBは、建物の前に佇んでいた人間ではない何かに襲われ、殺害される。この「何か」は黒い人間のようなシルエットで、瞬間移動能力を持っているようだ。カメラで撮ろうとすると画面にノイズが走ってうまく撮ることができない。
  • AはあるダイナーでSに追いつき、ダイナーのバックヤードにいたSを射殺する。この時、Aの視界に映る標的が男性であることから、Sは男性である。
  • Aは(雑貨屋の店員から聞いた?)「森の中の電気会社」(?)を見に行く。プレイヤーキャラクターの持ち物が銃であることから、このシーンの視点人物はAである。Aは廃墟前でBのカメラと死体を発見、通報する。死体の性別はローポリゴンのグラフィックではよくわからないのだが、通報の内容から、死体=Bは女性である。
    • このあたりの時系列は曖昧なのだが、Aが仕事を終える前に寄り道したとも思えないので、恐らくSの殺害を遂げた後で観光しに行ったのではないだろうか。また、Aが森に行く理由が特に見当たらないことから、「Aが森を訪れたのは雑貨屋の店員から観光情報を聞いたからではないか」(つまり二度目の雑貨屋のシーンに登場していたのはAではないか)という消極的な推測が成り立つ。
    • 通報については、実際に描かれるのはブラックアウトした画面で「廃墟*3前でバラバラになった女の子(girl)の死体を見つけた」と通報する人物と通報を受けた救急サービスのやりとりのみである。しかし、直前のシーンでAが廃墟前を訪れていたこと、また通報者が凄惨な死体の発見直後にも関わらず落ち着いていること、自身の身元を告げずに電話を切ったことから、通報者は(職業的に死体に慣れている殺し屋の)Aだと思われる。また、日本語版ではAの性別を特定できる台詞は出てこないが、英語版では救急サービスが通報者に対して「Ma'am?」と呼びかけていることから、通報者=Aは女性である。
  • ここから先は想像。電気会社は何か超科学的な研究だか実験だか取引だかに用いられていて、それにまつわる「事故」で廃業したのではないか。そして、その「禁じられた産業の残骸」(紹介文より)の一つが違法テープなのでは? 廃屋の地下室で流れていた謎の放送からすると、かつて何かしらSF的な計画が進行していたのかもしれない。廃墟前にいた超常的な存在が「産業」に関わっていた(あるいはあの存在も産業の残骸の一つだった)とすると、違法テープの鑑賞により肉体が変質する人間の描写もあながち幻覚とは言い切れないのかもしれない。

*1:ただし「ネタバレ厳禁!」タイプのサプライズ重視のゲームではない

*2:作中ではそうと判断できる要素は出てこなかった気がするが、紹介文の「森で神出鬼没の珍鳥を見つけて〜」という部分から判断するとBは珍鳥目当てのバードウォッチャーだったのだろう。ちなみに珍鳥とは森に出てくるオレンジ色の鳥だと思われる

*3:会話では「コンクリートのお屋敷」「ハイウェイ6-9の邸宅」と呼ばれている