インセインのハンドアウトを書く時に私が気をつけていること
インセインは癖のあるシステムです。ジャンルはホラーだし、PCは一般人で、強大な敵と戦う力を持ったヒーローではありません(設定的にもデータ的にも)。
TRPGシナリオの作り方やハンドアウトの書き方のノウハウはネット上でも色々と見つかりますが、インセインのプレイヤーである私は「参考にはなるけど、ちょっと違うんだよな」と感じていました。
そこで、「インセインのハンドアウトの書き方」にフォーカスを当てた文章を自分で書いてみよう、と思い立ったのがこの記事です。といっても、汎用的なノウハウの執筆は私には荷が重かったため、いつも自分が意識していることについての覚え書きとなりました。なお、この記事ではシナリオ背景からハンドアウトを切り出すコツや、ハンドアウトに関するゲーム的なバランスの話は一切していません。
あまり参考にはならないかもしれませんが、インセインのシナリオ作成の実際として読んでいただければ幸いです。
0. はじめのはじめに
本題に入る前に、私のプレイ環境およびシナリオ制作環境について紹介しておきます。
※手っ取り早く「で、どういうシナリオ書いてるの?」を知りたい方は以下をご覧ください:
https://www.pixiv.net/users/16372322/novels
まず、私は主にテキストセッション(テキストチャットのみを用いて行うセッション)で遊んでいます。ボイスセッションやオフセッションの経験も数回程度はありますが、ほぼ遊びません。そういう意味では、私のTRPG経験やTRPG観は偏ったものと言えます。
ただ同時に、私はインセインのシナリオを同人誌やネット上で発表しています。ボイセやオフセの知識は少ないですが、私のポリシーとして、テキセ以外のセッション形式でも問題なく運用できるようにシナリオを書いているつもりです。幸いシナリオはご好評をいただいており、テキセ以外でも遊んでいただいているようですので、自分のやっていることは間違ってはいないのかなと思っています。
というわけで、私は日頃から「他の人に読んでもらう・遊んでもらうこと」を意識してシナリオを作っています。以下の覚え書きは、そういう人間によるものであることをご留意ください。
1. はじめに:短いハンドアウトを目指す
インセインのハンドアウトを書くにあたって、私には自分に課している制約があります。それは、表面・裏面の内容ともに「約230文字以内であること」です。
文字数制限を設ける理由を簡単に説明します。
同人誌にした時の物理的制約
もっとも大きな理由です。同人誌を作る際、ハンドアウト枠のサイズを固定としているため、その枠内に収まる文字数でないといけません。その限界がだいたい230文字です。
短い方がわかりやすい
ハンドアウトの文章は短い方が理解しやすく、覚えやすいと考えています。セッション中、プレイヤーは様々なことに精神力を使っているため、長い文章は頭に入りづらいのではないでしょうかというのは建前で、実際は私自身がプレイヤーの時にハンドアウトの内容を結構忘れちゃうので……。
制約が美しさを生む(という面もある)
情報や描写を削って200文字ちょっとに収めるのは大変です。しかし、不要な語句を削除することによって自ずと冗長さが消え、文が引き締まる側面もあります。
2. ハンドアウト一般
プレイヤーの心理を意識する
ハンドアウトの文章はPCに向けた情報であるとともに、プレイヤーに向けたものでもあります。そのハンドアウトを読んだ時に、プレイヤーが何を・どのように感じるのか……あるいはあからさまな言い方をすると、プレイヤーに何を・どのように感じさせるのか、を意識しています。
一枚のハンドアウト(【秘密】)に情報を入れすぎない
1. の項目で書いた「短い方がわかりやすい」ということです。この場合はハンドアウトというか、PCが調査した結果出てくる【秘密】ですね。単なる勘なのですが、プレイヤーが一度に理解できる新情報の数は三つが限度なんじゃないかと思っています(恐らく三つでも厳しい)。
一枚の【秘密】に大量の情報を盛り込むことになってしまった時は、ハンドアウトを分割します。それでも収まりそうにないならば、そもそもシナリオのボリュームが多すぎる可能性が高いので、シナリオ背景そのものを見直します。
衝撃的な事実は初めに、かつ端的に書く
「加藤を殺したのはあなただ。あなたは加藤に脅迫されていた。だからあの日、あなたは裏山に加藤を呼び出して突き落としたのだ。」
「あなたは加藤に脅迫されていた。だからあの日、あなたは裏山に加藤を呼び出し、突き落として殺したのだ。」
上の二つの【秘密】では、前者の方がプレイヤーに与える衝撃が大きく、また「加藤を殺した犯人は誰か」という情報を伝える上でもわかりやすいです。(が、もちろんケースバイケースではあります。焦点となるのが「加藤の脅迫」であるならば、後者の方がいいでしょう。)
「パラグラフ・ライティング」という文章法がありますが、この考え方はハンドアウトを書く上でも有用だと思います。
「それ」の使用には注意する
「それ」「この」「あちら」といった指示代名詞は、指している対象が曖昧だとプレイヤーを戸惑わせてしまいます。指示代名詞、特に「それ」や「その」を使うのは、その代名詞が何を指しているのか誰でも明確に判断できる時に限ります。
セッション中に「この文の『それ』って何を指してますか?」と尋ねられたらはっきりと答えられるようでなければいけない、ということです(本当は、尋ねられた時点でちょっとまずいので改稿が必要かもしれません)。
シナリオの雰囲気に合わせて語彙や文体を調整する
叙情的なシナリオとコミカルなシナリオとでは、ふさわしい言葉や文体も変わってきます。とりわけ、叙情的な雰囲気を盛り上げたいシナリオでは言葉の選択に注意しています。何をふさわしいと感じるかは個人の好みが大きいので、例を挙げづらいですが……例えば、同じ状況をシリアス寄りとコメディ寄りの2パターンで書くと、以下のようになるでしょうか。
「PC1:あなたは教師だ。ある日、あなたは授業中に屋上へ出ているPC2を見つけた。何か事情がありそうだが、見逃すわけにはいかない。あなたの【使命】は、PC2とともに校内へ戻ることだ。」
「PC1:あなたは教師だ。ある日、あなたは屋上でサボっているPC2を見つけた。どうも訳ありらしいが、話は職員室で聞こうではないか。あなたの【使命】は、PC2とともに校内へ戻ることだ。」
3. PCのハンドアウト
意味のない【秘密】にはしない
「みんなかっこいい秘密なのに、自分だけ仲間外れだったな……」「自分のPCはなんでこんなことを隠してるの?」といった悲しみをプレイヤーに味わわせたくはないので、PCの【秘密】はなるべくシナリオ/PC/プレイヤーのいずれか(または複数)にとって意味を持つものにしています。
シナリオの本筋に絡む【秘密】を用意することが難しい時は、本筋とは無関係だけれどもPC本人にとっては切実だったり、プレイヤーが楽しくロールプレイできそうな【秘密】にすることを心がけています。
回想は必殺技である
この点については、私のプレイ環境がロールプレイ重視のテキセメインであることが関わっています。すべてのテキセがそうではないでしょうが、少なくとも私がよく遊ぶ環境では、回想シーンで長めの描写や演出を行いつつ【秘密】を公開するプレイヤーが多いです。
そういった光景をよく目にしてきたため、私は「回想シーンは必殺技なのだ」と思うに至りました。従って、PCの【秘密】はクライマックスフェイズで必殺技の技名のように叫ばれることを意識し、叫び甲斐がない話にはしないようにしています。ここは私の考えすぎかもしれません。
動機や心情を細かく指定しない
まず第一に、ハンドアウトでPCの動機や心情を細かく指定しようとすると230文字制限を突破します。そして第二に、シナリオ側で決めておく必然性がない部分についてはプレイヤーに任せたい、と私は考えています。余白がプレイヤーの手によってどう埋められるかを見たいのです。
4. PC以外のハンドアウト
どう調査されてもいいように書く
あるハンドアウトを、PCが演出上どういう方法で調査するかは予想できません。例えば調査対象がNPCであれば、PCは本人に話を聞きに行くかもしれませんし、密かに尾行するかもしれませんし、周囲から情報を聞き出そうとするかもしれません。調査対象が物品や事柄や場所であっても同様です。
ですので、【秘密】はどんな方法で調べられても大きな問題がないように書きます。想定外の調べ方をされたくない時は、ハンドアウトの表面で誘導するか、いっそ指示してしまいます。過去に作ったシナリオでは、NPCの表面に「このキャラクターの【秘密】を調べるには、直接会わなければならない」と書いたことがあります。
とはいえ、PCの行動と調査結果が多少矛盾しても「とにかく、あなたのPCはこういうことがわかった!」で済ませられるのがTRPGのいいところですから、あまり気にしなくてもいいかもしれません。
長い描写はマスターシーンにする
この【秘密】が開かれたらこんな描写をしたい、でも描写を【秘密】に書くとごちゃごちゃしてしまう(し、文字数を突破してしまう)……という時は、諦めて素直にマスターシーンにします。
描写と情報が混在している【秘密】は、スムーズに理解することが難しくなりがちです。混在させる時は全体の文量が多くなりすぎないように気をつけます。
5. おわりに
細々とした話ばかりになりました。本当はノウハウを書けたらよかったのですが、まあ、こんなことを考えながらインセインのハンドアウトを書いていますということで……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。